去る平成16年2月14日に開催いたしました、岡村病院健康講座に多数のご来場を賜り、ありがとうございました。今回は日本を代表する心臓外科医、須磨久善先生氏(神奈川県・葉山ハートセンター院長)による「21世紀の心臓外科の進歩」と題した講演を行っていただきました。

須磨先生は、様々なメディア等にてご存知の方も多いと思いますが、1950年 神戸市生まれ。74年大阪医大卒。順天堂大学胸部外科助手、三井記念病院心臓血管外科部長、ローマ・カトリック大心臓外科客員教授などを経て98年湘南鎌倉総合病院院長。2000年に葉山ハートセンターを開設され、心臓病に苦しむ多くの患者さんのためにご尽力されていらっしゃいます。


「21世紀の心臓外科の進歩」


須磨 久善院長  (神奈川県 葉山ハートセンター)




心臓外科の領域は、5000年と言われる外科医療の中でも一番遅く、人工心肺が開発された50年ほど前に生まれた。

2つの大きな出来事
 大学に入る頃に心臓外科の領域で2つの大きな出来事が起きた。1つは67年に南アフリカで行われた心臓移植手術。もうひとつは冠動脈バイパス手術がアメリカで成功したことだ。この冠動脈バイパス術との出会いが私の一生を決めた。当時の第一人者である順天堂大学の鈴木章夫教授に教えを請い、その後の多くの人との出会いにつながっていった。
 冠動脈バイパス手術は67年の成功以来、爆発的に増え、アメリカで年間40万人、日本でも20万人が手術を受けている。この手術は直径1〜2ミリという細い血管同士をつなぎ合わせる細やかな手術。高い技術と緊張を伴う作業だが、成功すればうそのようによくなるのである。
80年代、心臓外科に与えられたテーマは、冠動脈バイパス手術に使う新たな血管探しだった。従来は足の血管、そして胸の血管(内胸動脈)を使っていたが治療には多くの選択肢があった方がいいというわけで新しい血管を探していた。
 私は胸部外科の前に腹部外科、なかでも胃がんの手術を数多く経験していた。そこで胃の血管(胃大網動脈)を使うことを思いついた。太さも似ている。長持ちすることが解った。アメリカで評判になり、その良さを分かってもらうためブリュッセルの冠動脈バイパス手術学会では公開手術を行った。また90年代には20カ国を回ってこの手術を教えた。この手術で大切なことは、いい血管をつなぎ長期間良好な状態を保つことだ。

心臓を止めずに手術
 次に課せられたのは患者の身体に対する負担(侵襲=しんしゅう)をいかに少なくするかだった。心臓外科医は心臓を止めること自体が大きな侵襲と考えていたので、大きな傷口が残る開胸手術も当然と考えていた。しかし医学の進歩により胸腔鏡手術、腹腔鏡手術など内視鏡を使った侵襲の少ない治療が行われるようになった。そして94年に人工心肺を使わない手術が開発されると心臓外科も侵襲の少ない治療法が追求されるようになった。心臓を止めずに冠動脈バイパス手術をすると、術後の脳梗塞や高齢者にみられるぼけ症状がおこる危険性が少なくなる。感染症などの合併症も少ない。身体の負担が軽いので早く回復するのだ。最近はさらに手術用ロボットを導入して、内視鏡手術も視野に入れた試行を行っている。 ただ、低侵襲性手術は非常に高度な技術が必要であること、またすべての患者さんに適応できるものではないということも頭に入れておかなければならない。
                 
拡張型心筋症の手術
 そして今取り組んでいるのが心不全に対する手術である。特に拡張型心筋症という進行すると移植しか回復の手だてのない心臓疾患がある。
心臓は縮む力が落ちて十分な血液が送れなくなると回数を増やしてカバーしようとする。それでも十分でないと今度は血液をたくさんためて送ろうとする。その結果、心臓は膨らみ、パンパンになり動きが著しく低下してしまう。これが拡張型心筋症というものだ。
 心臓移植といってもドナーの提供をうけられるのは世界中で年間3000人。うちアメリカが2000人以上を占めており、日本は非常に少なく昨年は1例もなかった。これを手術で治そうというのがブラジルの医師が開発したバチスタ手術(左室縮小形成術)やモナコのドール医師の考案したドール手術だ。肥大した左心室の一部を切って縮めることで心臓の収縮を良くする方法で日本では私が96年にはじめて手術を行った。今では保険適応が受けられる。外国では思ったほど効果が上がらないとやめてしまったところも多いが、それは画一的に切り取るなど手技が十分でなかったためだ。私の場合、手術中に超音波で心臓の状況を確認しながら切るなど新しいアイデアを入れている。成功率は90パーセント以上と向上しつつある。

 心臓移植でしか助けられないとされる患者さん。日本ではその心臓移植もままならない。そんななか、移植でなくても患者さんを助けられるように工夫を凝らしている。

  講演を終えて(左:須磨医師 右:当院院長)